今日は以前患者様からご相談いただいたこともある「失行」についてお話します。
認知症の症状として、皆様が一番に想像されるのが「記憶障害」だと思いますが…実際日常生活や活動に大きな影響を及ぼすことがあるのがこの「失行」と呼ばれる症状です。
「失行」とは、身体機能に問題がないにも関わらず、今までできていた生活動作が困難になる、道具の使い方に困惑し、適切な利用の仕方が難しくなることを指します。
もの忘れ外来では
✔洋服の前後を誤る
✔洋服の袖に腕が通せない
✔携帯がかけられない(操作ができない)
✔適切な食器使用、選択が難しい
と言ったご相談をお受けします。
では、なぜ「失行」が起こるのでしょうか。
失行は脳卒中などの後遺症として起こることが知られていますが、同じ脳のご病気である認知症でもよく見られます。特に大脳皮質の前頭葉、頭頂葉部分の損傷や変性により生じやすいことが知られています。
失行は、身体に明らかな麻痺はないことが前提です(脳卒中で麻痺があっても失行を合併することはあります)。
又、常に出来ないわけではなく、状況や状態によっては可能な場合もちろんあります。
失行は以下に分類されます。
★観念失行 道具の使用用途も理解しているものの、道具を適切に使えない
例)歯ブラシが歯を磨く道具だとわかっていても適切な使用が難しい
家電のスイッチの入れ方がわからず適切な利用困難
★観念運動失行 実物がそこになくてもその動作を思い出してやってみることが難しい。
例)鍵を回す動作をしてみてくださいと言われても困難
バイバイの手振りや人を手招きする動作ができない
★肢節運動失行 手足の関節をうまく動かすことができない
★着衣失行 麻痺はないが洋服が上手く着られない
例)ズボンやTシャツの前後を誤る
ファスナーがうまく上げられない
靴の上から靴下を履こうとする
★構成失行 課題を理解しているにも関わらず、ものを描く、組み立てる、または模写することが難しい
例)□◯△等の図形を描く まねる
上記に挙げた症状の中で、とりわけ日常生活に影響が出やすいのは、観念失行と着衣失行かと思われます。では、次に失行がみられた場合の対処法をお伝えします。
◎歯が磨けない
→歯ブラシに歯磨き粉を付けた状態で手渡し。模倣などの動作で促して見ましょう
◎洋服の前後、裏表がわからない
→前後どちらかにに印をつけておく。前後で形の異なるものを着るようにする(丸首で前後分かりにくいものよりは、前後形の違うもの、Vネックなど)。ボタンがしめられる方であれば、ボタンやチャックなどの利用→袖を認識しやすい状態にしてみて下さい。
◎リモコンや携帯電話が使えない。
→リモコンは通話のOn/offのところにシールを貼っておく。
携帯電話も、いつもかける人は短縮ボタン(らくらくホンなどには標準装備されている)にしておいて、そのボタンにシールを貼っておく。
◎適切な食器を選定できない(牛乳をコップに注げない等の場合)
→コップを渡して飲み物を入れてもらう。また飲み物以外であっても、明確に指示や説明をして見てください。
人によって、起こる症状は様々です。
1度できなくても、繰り返しの学習が奏功する場合もありますので、あきらめず、焦らずに向き合ってくださいね。
■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。