皆様「ポリファーマシー」という言葉をご存じでしょうか。
「薬をたくさん飲んでいること」と思われがちですが、実は少し違います。ポリファーマシーとは、薬の数だけを問題にするのではなく、複数の薬を服用することで副作用や飲み合わせの影響が生じ、その人の生活に不利益が出ている状態を指します。
年齢を重ねると、高血圧や糖尿病、関節痛、不眠など、複数の病気を抱えることは珍しくありません。そのため、薬が増えること自体は決して悪いことではありません。大切なのは、「今の自分に必要な薬を、適切に服用できているか」という視点です。
実は、薬が認知機能に影響を及ぼすことがあります。『認知症疾患診療ガイドライン』(日本神経学会、2017)では、認知機能障害を示す方のうち、2〜12%は薬剤が関与している可能性があると報告されています。つまり、「認知症が進んだ」と思っていた症状が、薬を見直すことで改善する場合もあるということです。
例えば、「最近ぼんやりしている」「物忘れが増えた」「会話がかみ合わない」「集中できない」といった変化は、認知症だけが原因とは限りません。年齢とともに腎臓や肝臓の働きは低下し、薬を分解・排泄する力も弱くなります。その結果、これまで問題なく服用していた薬でも、体に強く作用してしまうことがあります。このように、薬が原因で認知機能が低下した状態は「薬剤起因性認知機能障害」と呼ばれます。
注意したいのは認知機能だけではありません。薬の影響で眠気やふらつき、血圧低下が起こると、転倒や骨折のリスクも高まります。特に高齢者では、大腿骨などを骨折して入院が必要になることも少なくありません。入院による環境の変化は心身への負担となり、認知症の症状やBPSD(行動・心理症状)が悪化するきっかけになることもあります。
さらに、見落とされやすいのが「抗コリン負荷」です。抗コリン作用を持つ薬を複数服用すると、その作用が重なり、認知機能の低下や眠気、便秘などが起こりやすくなります。この作用を持つ薬は、認知症の治療薬だけではなく、抗アレルギー薬や風邪薬、睡眠薬、胃腸薬、頻尿治療薬など、私たちに身近な薬にも含まれています。そのため、市販薬を購入する際も注意が必要です。
では、どのようなことを心掛ければよいのでしょうか。
まず、お薬手帳などを活用し、自分がどのような薬を服用しているのか把握すること。そして、「この薬は何のために飲んでいるのか」を、医師や薬剤師と定期的に確認することが大切です。病状や体の状態は時間とともに変化します。以前は必要だった薬も、現在は見直しができる場合があります。
もちろん、自己判断で薬を中止することは避けましょう。急に服用をやめることで、症状が悪化したり、新たな体調不良が現れたりすることもあります。気になる症状があれば、まずは医師や薬剤師へ相談してください。
薬は、健康を守るための大切な味方です。だからこそ、「薬を減らすこと」を目的にするのではなく、「今の自分に合った薬を適切に使い続けること」が何より重要です。定期的な見直しを行うことは、認知症に似た症状や転倒を防ぎ、安心して生活を続けるために大切です。
■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。