認知症ケア専門士によるコラム

幻覚への対応 | 認知症ケア専門士によるコラム

作成者: 日本テクトシステムズ株式会社|Jul 15, 2025 12:00:00 AM

こんにちは。 今日は、認知症における BPSD(行動・心理症状)のひとつである幻覚への対応についてご説明します。

まず、実際に存在しないものを知覚することを「幻覚」といいます。

そして幻覚はさらに分類され

・実際に存在しないものが見える → 幻視

・実際に存在しない音が聞こえる → 幻聴
・実際に存在しない匂いを感じる → 幻嗅

などに分けられます。

 

認知症の中で幻覚を主症状とするのが レビー小体型認知症(以下 DLB です。 中でも幻視の割合が多く、現実と区別がつかないほどリアルな人間や動物が見えるといわれています。また、それらは自身に話しかけたり、危害を及ぼしたりすることがない点が、この認知症の特徴的な幻視です。

私たちの臨床場面では、 「寝室に入ったら何人かの子供が座っている」 「散歩に行くとき、木の影からじっと見ている人がいる」 といった訴えが多く聞かれます。

中には「実際にはいないことは理解しているが見える」「人に話すと驚かれるから話していない」と、幻覚であることを理解し対処できる方もいます。一方で、あまりにリアルに見えるため、交番に届け出たり、幻の来客にお茶を出したりする方もいらっしゃり、生活にどれくらい支障をきたすかについても、その方によって幅があります。

また、DLB の方の中には、幻視のほかに 実態意識性 という症状が見られる事があります。 これは「見えないけど、近くに誰かがいるように感じる事がある」 「犬がそばを横切った感じがする」 といった、直接知覚を介さないレベルで気配を感じる事です。

幻覚の原因

DLB の方に見られる幻視の主な原因として、脳内に蓄積される レビー小体 というタンパク質が神経細胞に影響を与え、視覚情報を処理する後頭葉の機能低下を引き起こすためといわれています。

 

幻視の治療とケア

DLB の幻視には、抗認知症薬を用いた薬物治療が効果を認めることが多くあります。 また、薬以外のケアとしては、訴えへの対応や環境調整により、幻覚を落ち着かせる事もあります。以下に望ましくない対応と望ましい対応についてまとめます。

 

望ましくない対応

①「そんなものは絶対にいない」と強く否定する

ご本人にとっては非常にリアルに見えている為、真っ向から否定されると、「この人は私の話を信じてくれない」「大事なことを話しても意味がない」と関係が悪化したり、 「やっぱり私はおかしいのか?」と不安を助長する懸念があります。特に強く訴えがある場合は避けたほうがよいでしょう。

② 何がどんなふうに?何をしたの?と具体的に掘り下げる

相手に同調することには意味がありますが、幻覚の内容を具体的に掘り下げていく中で、二次的に幻覚から、事実と異なる妄想が出現する懸念もあるため、おすすめできません。

 

望ましい対応

まずは 傾聴 し、 「そのように見えることもあるよね」 「驚いたね」 と、相手の気持ちを理解した上で、注意を切り替える方向へ誘導します。

幻視が見えている状態の人は、自発的に注意や気分をその場から切り替えることが難しい状態が多くあります。 「下で美味しいケーキがあるから食べよう」など、場所を変えて明るい部屋へ誘導したり、注意を他に向ける声かけをしてみてください。

また、人によっては壁紙やカーテンの模倣が人の顔に見えたり、ベッドと床の影に何か意味のある形を見出したりする事があります。そのような場合は、カーテンを無地の明るい色に変えたり、寝る前まで部屋を明るくしておく事もひとつの方法です。

最後に、幻視は集団でいるときよりも、お一人のときに見られる傾向が多く、不安感や孤独感が背景に隠れている場合も多いといわれています。 日中デイサービスに参加したり、他者と共に過ごしていただくことで、症状が落ち着くこともあります。

幻覚への対応のように、認知症ケアにおいては、 ご本人に事実を説明して理解してもらおうとするのではなく、共感的な傾聴や環境を整える事で解決することが多くあります。

参考になれば幸いです。

 

 

 

 

■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。