「最近、何をするのも面倒くさそう。」
「一日中テレビを見ているだけ。」
「誘っても『やらない』と断られる。」
このような様子を見て、「年齢のせいかな」「もしかして、うつ病なのでは?」と心配されるご家族は少なくありません。
しかし、その「おっくうさ」は、単なる加齢ではなく、認知症の初期症状としてもよくみられる「アパシー(意欲低下)」 という状態かもしれません。
今回は、アパシーとはどのような状態なのか、認知症との関係や対応方法についてご紹介します。
アパシー(apathy)は、ギリシャ語の「a(失う)」と「pathos(感情・情熱)」に由来し、日本語では「無気力」「意欲低下」と訳されます。
以前は「やる気がない」「怠けている」と誤解されることもありましたが、現在では、脳機能の変化によって起こる症状の一つと考えられています。
「やる気がない」という点では、アパシーとうつ病は似ています。しかし、症状に対する内面的な本人の感じ方が大きく異なります。
うつ病では今の自身に対して、
など、強い苦痛や悲しみを抱きます。
一方、アパシーでは、そのような苦しさや罪悪感は少ないのが特徴です。
認知症ではアパシーとうつ病の両方を合併することもありますが、治療や対応方法が異なるため、ご家族だけで判断せず、医療機関に相談することが大切です。
アパシーは「本人の気持ちや気合による問題」ではありません。前頭葉の内側や前帯状回、基底核など、意欲や行動を調整する脳のネットワークの働きが低下することで生じます。
アパシーは、認知症の行動・心理症状(BPSD)の中でも最も頻度が高い症状の一つです。実際、以下のようにさまざまなタイプの認知症に高い割合で認められます(日本精神神経学会誌、2012)。
また、認知症が進行してからだけでなく、初期の段階から現れることも少なくありません。
一方で、認知症以外にも、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、脳卒中、あるいは服用しているお薬の影響などで生じる場合もあります。適切な治療によって改善する原因が隠れていることもあるため、自己判断せず、医療機関で原因を確認することが重要です。
アパシーそのものに対して薬が第一選択になることは多くありませんが、認知症が背景にある場合には、認知症治療薬の調整や、場合によってはドパミン系の薬剤や抗うつ薬などが有効なこともあります。
そして薬以上に大切なのは、日常生活における声掛けや環境作り。周囲の人が「本人の気合不足ではない」と理解することが何より重要で、「もっと頑張って」、「もっとしっかり」という励ましは、なかなか効果が見えなかったり、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。
まずできる工夫として、
など、自発的に行動する負担を減らす工夫をしてみましょう。
アパシーがあっても、一度活動の流れに乗ることができれば、そのまま最後まで取り組める方も少なくありません。無理にやる気を引き出そうとするのではなく、始めやすい環境を整え、小さな活動を積み重ねていく工夫が鍵になるかと思います。
■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。