意外と知られていない認知症の初期症状「アパシー」

2026.09.15

「最近、何をするのも面倒くさそう。」
「一日中テレビを見ているだけ。」
「誘っても『やらない』と断られる。」

 

このような様子を見て、「年齢のせいかな」「もしかして、うつ病なのでは?」と心配されるご家族は少なくありません。

しかし、その「おっくうさ」は、単なる加齢ではなく、認知症の初期症状としてもよくみられる「アパシー(意欲低下)」 という状態かもしれません。

 

今回は、アパシーとはどのような状態なのか、認知症との関係や対応方法についてご紹介します。

■ アパシーとは?

アパシー(apathy)は、ギリシャ語の「a(失う)」と「pathos(感情・情熱)」に由来し、日本語では「無気力」「意欲低下」と訳されます。

以前は「やる気がない」「怠けている」と誤解されることもありましたが、現在では、脳機能の変化によって起こる症状の一つと考えられています。

 

■ うつ病との違い

「やる気がない」という点では、アパシーとうつ病は似ています。しかし、症状に対する内面的な本人の感じ方が大きく異なります。

うつ病では今の自身に対して、

  •  悲しい、苦しい
  •  自分には価値がない
  •  将来に希望が持てない

など、強い苦痛や悲しみを抱きます。

 

一方、アパシーでは、そのような苦しさや罪悪感は少ないのが特徴です。

 

認知症ではアパシーとうつ病の両方を合併することもありますが、治療や対応方法が異なるため、ご家族だけで判断せず、医療機関に相談することが大切です。

■ アパシーの原因となる認知症

アパシーは「本人の気持ちや気合による問題」ではありません。前頭葉の内側や前帯状回、基底核など、意欲や行動を調整する脳のネットワークの働きが低下することで生じます。

 

アパシーは、認知症の行動・心理症状(BPSD)の中でも最も頻度が高い症状の一つです。実際、以下のようにさまざまなタイプの認知症に高い割合で認められます(日本精神神経学会誌、2012)。

  • 前頭側頭型認知症(FTLD):約85%
  • アルツハイマー型認知症(AD):約67%
  • 血管性認知症(VaD):約67%
  • レビー小体型認知症(DLB):約50% 

また、認知症が進行してからだけでなく、初期の段階から現れることも少なくありません。

 

一方で、認知症以外にも、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、脳卒中、あるいは服用しているお薬の影響などで生じる場合もあります。適切な治療によって改善する原因が隠れていることもあるため、自己判断せず、医療機関で原因を確認することが重要です。

 

■ 認知症におけるアパシーの治療と工夫

アパシーそのものに対して薬が第一選択になることは多くありませんが、認知症が背景にある場合には、認知症治療薬の調整や、場合によってはドパミン系の薬剤や抗うつ薬などが有効なこともあります。

 

そして薬以上に大切なのは、日常生活における声掛けや環境作り。周囲の人が「本人の気合不足ではない」と理解することが何より重要で、「もっと頑張って」、「もっとしっかり」という励ましは、なかなか効果が見えなかったり、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。

 

まずできる工夫として、

  • 散歩 → 「一人で散歩する」から「近所の友人に誘ってもらって散歩する」へ
  • 体操 → 「家で自発的に体操する」から「送迎付きのデイケア」へ
  • 洗濯 → 「全て自分でする」から「洗濯物をたたむ役割をお願いする」へ

など、自発的に行動する負担を減らす工夫をしてみましょう。

 

アパシーがあっても、一度活動の流れに乗ることができれば、そのまま最後まで取り組める方も少なくありません。無理にやる気を引き出そうとするのではなく、始めやすい環境を整え、小さな活動を積み重ねていく工夫が鍵になるかと思います。

 

 


 

■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。

前田先生

医療法人バディ 認知症部門部長 

前田 順子(言語聴覚士・認知症ケア専門士)

2005年から都内の急性期病院に言語聴覚士として勤務。認知症疾患医療センター内での、入院ケア、認知機能検査、認知症カフェの運営等、認知症のある方やご家族のケアに携わった豊富な経験をもつ。

2020年より医療法人バディにて認知症部門立ち上げ。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。ICTを活用した居宅支援「オンライン認知症ケアプラス®」、スターバックスとのコラボによる認知症カフェ「ウェルビーイングカフェ鎌倉」等の企画・運営を担当。

バディ

医療法人バディ https://buddymedical.jp/

2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。