認知症のある人が嘘をつくように見える理由
2026.09.01
今日は、臨床現場でご家族からよく耳にするお悩みについて考えてみたいと思います。 日々の生活や症状を伺う中で、多くの方から「最近、嘘をつくことが多いんです」「ありもしない事実を、あたかもあったかのように話すんです」というご相談を受けます。
でも、それって本当に「嘘」なのでしょうか?
皆様からお伺いするお話は、例えばこんな感じでしょうか。
・ 「財布を誰かに盗られたと言い張る。そんなはずないのに……」
・ 「ついさっき食べたばかりなのに、5分もしないうちに『ご飯を作らなきゃ』と繰り返す」
毎日のことだからこそ、ご家族が疲弊してしまうのも無理はありません。
■ 脳が空白を埋めようとする仕組み
そもそも私たちの脳は、目の前の出来事をバラバラのパーツではなく、1枚の絵のように繋ぎ合わせて理解しています。
【本来の記憶:私がリビングの引き出しに財布を入れた】
これを正しく思い出すためには、「私」「リビング」「引き出し」「財布」「入れた」という5つの要素を覚えている必要があります。しかし、認知症のある方は記憶障害によって、この一部が抜け落ちてしまうことがあります。
すると脳は、その空白を何とか埋めようとして「きっとこうだったに違いない」と、無意識にストーリーを補完してしまいます。その結果、本人の記憶が本来の事実とは違ってしまい、周囲からは「嘘をついている」ように見えてしまうのです。
しかし、この脳の仕組みを知ると、それは決して悪意のある「嘘」ではなく、本人にとってはまぎれもない「事実」であることが分かります。
■ 記憶は脳の中で「再構成」されている
私たちは「見たものをそのままビデオのように記憶し、思い出している」と思いがちですが、実は人間の脳は「記憶をただ再生する」のではなく、「断片的な記憶を組み合わせて再構成する」働きをしています。そのため、認知症によってその再構成がうまくいかなくなると、抜け落ちた空白を自然に埋めようとして、本人だけの現実が生まれるのです。
・ 昨日の出来事を今日のことだと思い込む
・ 亡くなったご家族が今も生きていると信じている
・ 昔の家へ帰ろうとする
これらはすべて、同じ脳の仕組みで説明がつきます。
■ 事実の修正ではなく、感情に寄り添う
では、ご家族として、この症状にどう向き合えばよいのでしょうか?
大切なのは、間違っている事実をその都度「修正する」ことではなく、本人の「感情に寄り添う」ことです。
・ 「財布がなくなった!誰かに盗られた!」と言われたら
⇒ 「財布がなくなって心配だね」「一緒に探そうか」と不安を受け止める。
・ 「ご飯を食べていない!」と言われたら(さっき食べたばかりでも)
⇒ 「お腹が空いたのね」「何か少し用意しようか」と気持ちを満たす。
余裕がない日には、どうしても「また困らせようとしているのでは」と感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、ご本人は周りを困らせたいわけではなく、頭の中にある「事実」や「不安」に従って動いているだけなのです。
これが、認知症のある人が「嘘をついている」ように見える本当の理由です。
日々の生活の中で、その言葉を責め立てたり否定したりせず、「そう感じているんだね」と受け止めること。とても難しいことだとは思いますが、それこそがお互いの心を守り、一番のケアに繋がっていくのではないかと考えています。
■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。
医療法人バディ 認知症部門副部長
廣島真柄(言語聴覚士・認知症ケア専門士)
都内の総合病院に言語聴覚士として15年以上勤務。主に急性期病院で脳卒中、神経難病の患者のリハビリを担当しながら、認知症疾患医療センターでもの忘れ外来の検査や入院患者の認知症ケアを担当。2021年に医療法人バディに入職。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。
医療法人バディ https://buddymedical.jp/
2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。
