先日、あるご家族から「認知症になると徐々にできることが減り、最終的には寝たきりになると聞いていたが、発症から5年経過しても、記憶障害のみで日常生活には大きな変化が見られない。母は本当に認知症なのでしょうか?」というご質問を頂きました。
私たちの臨床においても、特に80歳以上の高齢者において認知症と診断されたものの、非常に進行が緩徐なケースを多数経験しています。本日は、アルツハイマー型認知症と類似した臨床像を呈しつつも、異なる基礎病理を有する認知症疾患について、いくつか解説いたします。
臨床像:80歳以上の高齢者に多く、記憶障害が初発で、他の認知機能低下は目立ちにくい。
進行:緩やかに進行し、記憶以外の言語機能などは保たれていることが多い。
画像診断:MRIで海馬領域の萎縮・側脳室下角の拡大がみられるが、大脳皮質の萎縮は相対的に軽度。
病理:海馬および周辺領域にNFT(神経原線維変化)が大量に沈着するが、アミロイドβの沈着はほとんど認められない。
臨床像:80歳前後の高齢で発症し、もの忘れは見られるものの、初期では記憶障害は軽度。一方、性格・情動変化が主体で、易怒性、頑固さ、被害妄想、興奮、暴力・暴言、嫉妬妄想などの行動・心理症状(BPSD)が目立つ。
進行:ゆるやかな進行。
画像診断:MRIやPETで、側頭葉内側面、特に迂回回(うかいかい)中心の萎縮が左右非対称にみられることが特徴。
病理:側頭葉内側部に異常なタウ蛋白の嗜銀顆粒が蓄積するがアミロイドβの沈着は認められない。
これらの認知症はいずれも初期に記憶障害を伴う事から、もの忘れ外来で初期のアルツハイマー型認知症と診断されることが多くあります。
病理学的には、アルツハイマー型認知症がアミロイドβ蓄積を特徴とする一方、上に挙げた疾患ではアミロイドβの蓄積は確認されない点が、両者の重要な相違点となります。しかし、これらを鑑別するには、脳血流パターンや、髄液検査等、ご本人にとってご負担の多い検査を必要とし、現在レカネマブ等の新薬の適応を判断する検査以外では一般的に行われません。
今後、医学の進歩とともに、これらの詳細な鑑別が比較的負担の少ない検査で行えるようになる可能性はありますが、そのような時代が来ても、認知症の経過が多様であることに変わりはないと思います。
経過を丁寧に観察し、ご本人・ご家族と共有しながら、個別性の高い支援をおこなうことの重要性を改めて感じたご質問でした。
■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。