認知症とポリファーマシーの意外な関係について

2026.08.11

皆様「ポリファーマシー」という言葉をご存じでしょうか。

「薬をたくさん飲んでいること」と思われがちですが、実は少し違います。ポリファーマシーとは、薬の数だけを問題にするのではなく、複数の薬を服用することで副作用や飲み合わせの影響が生じ、その人の生活に不利益が出ている状態を指します。

年齢を重ねると、高血圧や糖尿病、関節痛、不眠など、複数の病気を抱えることは珍しくありません。そのため、薬が増えること自体は決して悪いことではありません。大切なのは、「今の自分に必要な薬を、適切に服用できているか」という視点です。

 

■ 物忘れやぼんやり感、実は「薬」の影響かも?

実は、薬が認知機能に影響を及ぼすことがあります。『認知症疾患診療ガイドライン』(日本神経学会、2017)では、認知機能障害を示す方のうち、2〜12%は薬剤が関与している可能性があると報告されています。つまり、「認知症が進んだ」と思っていた症状が、薬を見直すことで改善する場合もあるということです。

例えば、「最近ぼんやりしている」「物忘れが増えた」「会話がかみ合わない」「集中できない」といった変化は、認知症だけが原因とは限りません。年齢とともに腎臓や肝臓の働きは低下し、薬を分解・排泄する力も弱くなります。その結果、これまで問題なく服用していた薬でも、体に強く作用してしまうことがあります。このように、薬が原因で認知機能が低下した状態は「薬剤起因性認知機能障害」と呼ばれます。

 

■ 転倒リスクや「身近な薬」に潜む影響

注意したいのは認知機能だけではありません。薬の影響で眠気やふらつき、血圧低下が起こると、転倒や骨折のリスクも高まります。特に高齢者では、大腿骨などを骨折して入院が必要になることも少なくありません。入院による環境の変化は心身への負担となり、認知症の症状やBPSD(行動・心理症状)が悪化するきっかけになることもあります。

さらに、見落とされやすいのが「抗コリン負荷」です。抗コリン作用を持つ薬を複数服用すると、その作用が重なり、認知機能の低下や眠気、便秘などが起こりやすくなります。この作用を持つ薬は、認知症の治療薬だけではなく、抗アレルギー薬や風邪薬、睡眠薬、胃腸薬、頻尿治療薬など、私たちに身近な薬にも含まれています。そのため、市販薬を購入する際も注意が必要です。



■ 自己判断は禁物! 医師・薬剤師と定期的な見直しを

では、どのようなことを心掛ければよいのでしょうか。

まず、お薬手帳などを活用し、自分がどのような薬を服用しているのか把握すること。そして、「この薬は何のために飲んでいるのか」を、医師や薬剤師と定期的に確認することが大切です。病状や体の状態は時間とともに変化します。以前は必要だった薬も、現在は見直しができる場合があります。

もちろん、自己判断で薬を中止することは避けましょう。急に服用をやめることで、症状が悪化したり、新たな体調不良が現れたりすることもあります。気になる症状があれば、まずは医師や薬剤師へ相談してください。

 

薬は、健康を守るための大切な味方です。だからこそ、「薬を減らすこと」を目的にするのではなく、「今の自分に合った薬を適切に使い続けること」が何より重要です。定期的な見直しを行うことは、認知症に似た症状や転倒を防ぎ、安心して生活を続けるために大切です。

 



■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。

廣島先生

医療法人バディ 認知症部門副部長 

廣島真柄(言語聴覚士・認知症ケア専門士)

都内の総合病院に言語聴覚士として15年以上勤務。主に急性期病院で脳卒中、神経難病の患者のリハビリを担当しながら、認知症疾患医療センターでもの忘れ外来の検査や入院患者の認知症ケアを担当。2021年に医療法人バディに入職。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。

バディ

医療法人バディ https://buddymedical.jp/

2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。