さっき言ったでしょ、を飲み込む力

2026.04.14

本日は趣向を変えてのお話です。日々の臨床で一日に何度かお伺いする、

「それ、さっき言ったでしょ。」

についてお話しします。

 

 

皆様、一日のうちに、何回この言葉が喉まで出かかるでしょうか?

朝起きてすぐに

 「今日は何曜日?」

10分後にも

 「今日は何曜日?」

 

……さっき言ったでしょ。

と、心の中で10回目(笑)

 

 

でも実は、この「言ったのに伝わらない」現象には、きちんと理由があります。

記憶の中でも特に「新しく覚える力(=近時記憶)」が低下しやすいことは、皆様もご存知の通りかと思います。

これは、脳の中で記憶の入り口を担う「海馬」という部分の働きが弱くなるために起こる事象です。つまり本人は「忘れた」のではなく、「そもそも保存できていない」状態に近いのです。

 

大容量記憶媒体のパソコンで例えるなら、保存ボタンが不具合を起こしている状態。

入力はしているのに、データが残らない。

 

だから何度も聞きます!

悪気はゼロです!!むしろ本人も本気です!!!

 

それでも家族は疲れます。

同じ質問に何度も答えるのは、地味に体力を削ります。

そしてつい出そうになるのが、あの一言…

 

 「さっき言ったでしょ。」

 

でもこの言葉、実はほとんど効果がありません。

なぜなら、本人の脳の中には「さっき」が存在していないからです。

 

さっきが存在していないのに、何か「言われた」という感情だけが残る事も多々あります。

内容は消えても、「叱られた感じ」だけが残る。

これが関係性のすれ違いを生むこともあります。

 

ではどうすればいいのでしょうか?

 

それは、「初めてのつもりで短く答える」こと。

そして、視覚的な手がかりも利用しましょう♪

 ✅カレンダーやホワイトボートに予定を記入

 ✅デジタルカレンダー(曜日や日付のみ記載してあるもの)

記憶を「脳だけに任せない」工夫です。書いてあるものを見て動くことができれば大丈夫!

 

そして病気になる前から習慣づいている人は強いです。気になる方、今から備えておきましょう♪

脳以外の記憶媒体を駆使する力を♪

 

そしてもうひとつ大切なのが、「飲み込む力」。

これは我慢大会ではありません!

「さっき言ったでしょ」を飲み込むことは、相手の尊厳を守るという選択です。

 

もちろん、完璧でなくても大丈夫です。

飲み込めない日もあります。人間だもの(🄫相田みつをさん)。

そんな日は、心の中でこうつぶやいてみてください。

 「保存ボタン、今日も不具合中か。」

 そして私の「飲み込む力も停滞中か…」

そんな時、少しだけ、笑えたら成功です。

 

ケアには、正しさよりも関係性が大切です。脳の特性を知って、その変化に気を配る事。これは優しくなるための武器になります。

 

今日もきっと、同じ質問が飛んできます。

そのとき少しだけ思い出してください。

相手は「困らせたい人」ではなく、

「覚えたくても覚えられない脳」と向き合っている時間なのだということを。

 

そして介護者側も、こういったことに思いを巡らすことができる時点で頑張っています!

たまには自分もねぎらって甘やかしてくださいね♪



 

■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。

廣島先生

医療法人バディ 認知症部門副部長 

廣島真柄(言語聴覚士・認知症ケア専門士)

都内の総合病院に言語聴覚士として15年以上勤務。主に急性期病院で脳卒中、神経難病の患者のリハビリを担当しながら、認知症疾患医療センターでもの忘れ外来の検査や入院患者の認知症ケアを担当。2021年に医療法人バディに入職。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。

バディ

医療法人バディ https://buddymedical.jp/

2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。