認知症になっても暮らしやすい家とは?:住みやすい住宅づくり5つのポイント

2026.07.21

「認知症になっても、住み慣れた町で暮らしたい」
これは、多くの方やご家族が願うことではないでしょうか。
認知症による暮らしの困りごとが出てきたとき、大切なのは、“暮らしの環境”を整えることです。
今日は、認知症のある方が、より長く安心して暮らし続けるための住宅づくりのポイントを5つご紹介します。

 

 

① 物の置き場

ポイント:「探さなくていい環境と安心感」を作ること


認知症になると、記憶障害や注意障害により、「どこにしまったか」だけでなく、「しまったこと自体」を忘れてしまうことがあります。また、物を探し出すこと自体が難しくなり、見つからないことで「盗まれたのではないか」と不安や誤解につながることもあります。すると、さらに別の場所へ隠してしまい、ますます見つからなくなる…という悪循環が起こることがあります。

そのため、単に「片付ける」のではなく、“探さなくても分かる環境”を作ることが大切です。
例えば、


・ 収納にラベルや写真を貼る
・ 中身が見える透明ボックスを使う
・ 鍵や財布などには“物探しキーホルダー”(注1) をつける

 

などの工夫があります。「失くしても見つけられる」という安心感そのものが、しまい込みや不安の軽減につながります。
(注1)貴重品に取り付け、無くした際にスマートフォンや専用リモコンを使って場所を特定できるアイテム

 

 

② トイレ

ポイント:「見つけやすさ」と「たどり着きやすさ」

 

認知症が進行すると、自宅の中でもトイレの場所が分からなくなることがあります。
特に夜間は、暗さや不安によって混乱しやすくなります。
そのため、


・ トイレまでの動線を人感センサーライトで照らす
・ ドアにピクトグラム(トイレマーク)をつける
・ 自室からトイレまで手すりを設置する

 

など、“自然にトイレへ向かえる環境”を作ることが大切です。

 


また、高齢になると視覚機能も低下しやすく、白い便座と白い床・壁が同化して見えにくくなることがあります。
そのため、トイレの中でも


・ 便座にコントラストのあるシートを貼る
・ トイレットペーパーのカバーを目立つ色にする

 

など、“見えやすさ”を意識した色使いも役立ちます。

 

 

③ 階段

ポイント:「段差の分かりやすさ」と「つかみやすい手すり」

 

認知症のある方は、注意力や空間認識の低下により、階段での転倒リスクが高くなります。
特に、デパートの大理石の階段や、お寺の石段のように、模様や陰影が複雑な場所では、段差や奥行きが分かりにくくなることがあります。
自宅でも、


・ 階段を明るくする
・ 段差のふちに目印をつける
・ 滑り止めを設置する
・ 両側につかみやすい手すりをつける

 

など、“見えやすさ”と“つかみやすさ”の両方を整えることで、安心して移動しやすくなります。

 

 

④ キッチン

ポイント:「段取りを助ける配置」と「見える化」

 

料理には、
・ 段取りを考える
・ 注意を切り替える
・ 火を管理する


など、多くの認知機能が必要です。そのため、キッチンは認知症のある方にとって、とても複雑な場所でもあります。

しかし、「危ないから全部やめる」という対応だけでは、役割や生きがい、自尊心を失ってしまうこともあります。


・ 調理工程を動線に合わせて見やすく配置する(調理器具の種類もよく使うもののみ残し、単純化する)
・ 収納の中にもラベルを貼る
・ IHコンロや自動消火機能付き機器を活用する
・ 電気ポットなどを見える位置に置く

 

など、その場で自然に作業を続けられる環境づくりが役立ちます。

 

 

⑤ 寝室

ポイント:「安心できる明るさ」と「夜間の安全性」

 

夜間は、不安や混乱が強くなりやすい時間帯です。また、高齢者は夜中にトイレへ行く機会も増え、ベッド周りでの転倒も多くあります。
そのため、


・ 部屋を暗くしすぎない
・ 時計やカレンダーを見やすく置く
・ ベッド周りに物を置かず、必要な位置に手すりを設置する

 

などが有効です。

 

認知症の方が暮らしやすい住宅に求められるのは、“特別な家”ではなく、「できないこと」を増やさない環境を整えることです。
心理学やリハビリテーションの分野に、「エラーレスラーニング(できるだけ失敗を減らしながら学ぶ方法)」という考え方がありますが、認知症ケアにおいても、“失敗しにくい環境”を整えることは、ご本人の自尊心を守るだけでなく、失敗を助長しない仕組みや「できた」という安心感にもつながります。
ご自宅の環境作りの参考になれば幸いです。

 

 

 

 

■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。

前田先生

医療法人バディ 認知症部門部長 

前田 順子(言語聴覚士・認知症ケア専門士)

2005年から都内の急性期病院に言語聴覚士として勤務。認知症疾患医療センター内での、入院ケア、認知機能検査、認知症カフェの運営等、認知症のある方やご家族のケアに携わった豊富な経験をもつ。

2020年より医療法人バディにて認知症部門立ち上げ。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。ICTを活用した居宅支援「オンライン認知症ケアプラス®」、スターバックスとのコラボによる認知症カフェ「ウェルビーイングカフェ鎌倉」等の企画・運営を担当。

バディ

医療法人バディ https://buddymedical.jp/

2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。