「徘徊」と言わなくなった理由

2026.07.07

今日は、認知症の症状に関する“言葉の変化”についてお話しします。

 

 

今でも耳にすることはありますが、以前は認知症のある方が家の外へ出て歩き回ることを、「徘徊(はいかい)」と呼ぶのが一般的でした。しかし近年では、医療や介護の現場で、この言葉をあまり使わなくなってきています。

 

「徘徊」という言葉には、“目的もなく歩き回る”という意味合いが含まれています。
ですが、認知症のある方の外出や歩行には、“その人なりの理由”があると考えられているためです。


どんな理由かというと・・・

 ・ 「家に帰らなければ」と思っている

 ・ 仕事へ行こうとしている

 ・ 家族を探している

 ・ 今いる場所がなんとなく落ち着かない

など、うまく言葉で説明できなくても、行動の背景には、その人なりの目的や感情があります。

 

 

認知症の主たる症状の中に、記憶障害や見当識障害がありますが、これにより「今いる場所」や「時間」の認識が実際とずれることがあります。特に、最近の出来事よりも、“遠隔記憶(えんかくきおく)”と呼ばれる昔の記憶の方が保たれやすいため、

 ・ 最近引っ越した家が、自分の家とは感じられない

 ・ 2年前に退職したことを忘れ、会社へ行こうとする

など少し前の感覚を今のことのように感じ、行動してしまう事があるのです。


また、病院や施設などにいる時に、面会へ来ていたご家族さんが次々と帰る様子を見て、「自分も帰って夕食の支度をしなければ!」と思い立ち、自然な流れで外へ出ようとすることもあります。


もちろんこれは“わざと困らせている”わけではなく、ご本人の頭の中では、「今、自分がやるべきこと」を、一生懸命行動している場合が多いのです。そのため最近では、「徘徊」という言葉ではなく、「ひとり歩き」「外出行動」といった表現が使われるようになりました。

 


ひとり歩きには事故や行方不明などのリスクがあるため、ご家族にとって心配であることは変わりませんが、だからこそ「どうして外へ行こうとしているのか」という背景を考え、その上で、

 ・ 落ち着かない時間こそ役割や作業の時間にする

 ・ 日中の活動量や生活リズムを見直す

 ・ GPSや見守り機器を活用する

 ・ 周辺環境(騒音・人の出入り)などを評価し調整する

といったアプローチにより、安心して過ごせる環境作りがケアの重要なポイントになります。


言葉はイメージや人の受け取り方に影響するため、その方に合ったケアプログラムを考える上でも、言葉の見直しは、とても大切だと感じます。


 

 


■執筆者情報
この記事は、医療法人バディ公式LINE「ケアコミ」の内容を引用しております。

前田先生

医療法人バディ 認知症部門部長 

前田 順子(言語聴覚士・認知症ケア専門士)

2005年から都内の急性期病院に言語聴覚士として勤務。認知症疾患医療センター内での、入院ケア、認知機能検査、認知症カフェの運営等、認知症のある方やご家族のケアに携わった豊富な経験をもつ。

2020年より医療法人バディにて認知症部門立ち上げ。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。ICTを活用した居宅支援「オンライン認知症ケアプラス®」、スターバックスとのコラボによる認知症カフェ「ウェルビーイングカフェ鎌倉」等の企画・運営を担当。

バディ

医療法人バディ https://buddymedical.jp/

2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。