正常圧水頭症について
2025.09.02

皆様、認知症というと進行性の病変を思い浮かべる方が多いかと思いますが、一方、治る認知症があることもご存じですか?
その中でも今日は正常圧水頭症についてお話しします。
正常圧水頭症は、脳の中にある脳室に脳髄液が異常にとどまることで脳室が拡大し、脳を圧迫している状態を指します。
脳室では1日に500mlほどの脳脊髄液が新たに作られ、常に生産と吸収で入れ替えが行われていますが、何らかの原因によって、脳脊髄液の入れ替えがうまくいかなくなることがあります。
くも膜下出血や髄膜炎で発症する正常圧水頭症を「持続性正常圧水頭症」と呼びます。正常圧水頭症の60%を占めると言われていますが、40%は原因不明の「特発性正常圧水頭症」です。加齢によって引き起こされる生理的な機能低下による症状とも共通しているため、症状の問診だけで診断を下すのは難しいとされています。
症状
正常圧水頭症は時間経過とともに徐々に脳室が拡大するため、頭蓋内圧は正常範囲の状態にあり、頭痛や吐き気などの症状は現れません。
一方、脳が徐々に圧迫されることで、①歩行障害、②認知機能障害、③尿失禁という3大症状が目立つようになります。
検査
正常圧水頭症には、以下のような検査を行います。
頭部CT/MRI
診断を確定させるためには、脳室が拡大していることを確認する必要があり、頭部CT検査が非常に有効です。第一選択はCTで、MRIでは脳室周囲に特徴的な変化が確認できるため、CT検査では判断がしづらい場合に行われることが多いです。
タップテスト(髄液排除試験)
正常圧水頭症は、過剰に溜まった脳脊髄液を排除すると症状が改善するケースが多いと言われます。ですので、まずは手術の適応の有無を判断するためにも、腰椎のくも膜下腔から脳脊髄液を抜き取り、数時間~数日に起きる症状の変化を調べます。私が以前働いていた病院では、検査の前後で歩行能力や認知機能の検査を実施し、その効果の有無を判定していました。
治療
検査結果にて正常圧水頭症の確定診断を受けた場合は、脳脊髄液の循環を助けるために手術が行われます。脳脊髄液のバイパス手術で「シャント手術」と呼ばれ、現在は以下の2つの方法で手術が行われます。
【V-Pシャント:脳室-腹腔シャント】
【L-Pシャント:腰椎-腹腔シャント】
それぞれ脳室、腰椎から細い管を皮下に通して、腹腔(腹膜に囲まれた体腔)に留置する方法。体内に埋め込んだバルブで状態に合わせてバルブ圧を変更し、脳脊髄液の流量を調節します。シャント術後しばらくして、またお水がうまく流れない場合も、比較的簡単にバルブ圧を調整することが可能です。
なお、【V-A:脳室-心房シャント】もありますが、上記2つがほとんどの様です。
手術は1-2時間、入院は1-2週間程度です。
シャント術がうまくいけば、適切な脳圧を維持し、認知機能の安定が図られます。これが治る認知症の所以です。
もの忘れの検査場面でも画像や身体機能、認知機能評価で疑われることはありますが、先ほどお伝えした三徴候や気にかかる事があれば、早めに医療機関を受診してください。
正常圧水頭症以外にも、治る認知症として慢性硬膜下血種、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症などがあります。またご紹介できればと思います。

医療法人バディ 認知症部門副部長
廣島真柄(言語聴覚士・認知症ケア専門士)
都内の総合病院に言語聴覚士として15年以上勤務。主に急性期病院で脳卒中、神経難病の患者のリハビリを担当しながら、認知症疾患医療センターでもの忘れ外来の検査や入院患者の認知症ケアを担当。2021年に医療法人バディに入職。コミュニケーションを主軸とした認知症の非薬物療法に取り組む。

医療法人バディ https://buddymedical.jp/
2019年設立。横浜市、鎌倉市に3つの脳外科クリニックと認知症部門を展開。2023年より、居宅介護支援事業、訪問リハビリ。2024年より訪問看護部門を開設。